「中国巨大市場の真実とその行方」 多摩大学教授・大学院教授 沈才彬(しんさいひん)
私が日本で長期滞在を始めたのは1989年であるが、その年は、ベルリンの壁が崩壊した年で、その後旧ソ連・東欧社会主義諸国が相次いで崩壊した。中国でも、同年6月に天安門事件が起こっているが、中国はこの危機をうまく切り抜けることができた。ベルリンの壁崩壊後20年、社会主義国の中で、なぜ中国だけが急速な台頭を遂げることができたのか?それは、鄧小平の「非常識発想」、すなわち、資本主義を学んで社会主義を是正するという、「改革解放」、「社会主義市場経済」によるものである。 中国は一昨年の米国発金融危機から一番先に脱却したが、それには3つの理由がある。一つめの理由は、「政変」には弱いが、「外部危機」に強いという中国の異質構造にある。「政変」に弱い中国経済というのは、共産党一党支配の弱みであり、外部危機に強い中国経済というのは、共産党一党支配の強み(民主主義のコストを払わずに済むということで、政策転換が速い)である。二つめの理由は、奥が深い中国経済ということで、外需依存型の「海洋国家」の中国(沿岸部)と、内需依存型の「大陸国家」の中国(内陸部)の両面があることである。そして三つめの理由は、約57兆円の大型景気対策の効果である。 こうした中、2010年の中国経済の見通しであるが、上海万博で勢いづいており、その効果が0.5%程度寄与し、成長率は9%台、場合によっては10%も展望できる。ビジネスの観点から特に注目が要るのは次の7つの動きである。①株式市場、②自動車市場、③不動産市場、④人民元相場、⑤資源安から資源高への動き、⑥デフレからインフレへの変化、⑦金融緩和から金融引き締めへの転換、である。株式市場は昨年のような急騰はなく、当面は調整局面が続くと思われる。自動車市場は、昨年は減税効果が寄与したが、今年は国民の豊かさを反映して、前年比3割増が見込まれる。住宅市場については、バブル傾向は要注意だが、急ピッチな都市化が市場拡大の原動力となると予想される。人民元は5%前後の切り上げはあり得るが、緩やかな元高に止まるのではないか。いずれにせよ、高い経済成長が続くと思われる。 もっとも、2010年以降は、北京オリンピックと上海万博という国家イベントが終わり、紛争多発の時期に入るのではないか。特に、2013年は要注意の年である。つまり、政権交代の年であり、権力闘争の可能性と経済成長への悪影響が懸念される。中国政府が抱える「格差」と「腐敗」という2つの「時限爆弾」が爆発する可能性がなきにしもあらずだ。しかしながら、①未完の工業化、②未完の都市化、③中間層・富裕層の急増といった状況から、経済成長の挫折が起きても一時的なものに止まるのではないか。2020年まで年平均7%前後の成長が可能と思われる。 「爆消時代」に突入する中国、世界のモノ、カネ、ヒトを飲み込む中国黒洞(ブラックホール)に対面して、日本企業には2つの戦略転換が必要となろう。第一に、世界戦略としては、米国中心から新興国中心へということであり、第二に、中国戦略としては、中国の「世界の工場」としての活用ではなく中国という「巨大市場」を狙えということである。日本企業の中国ビジネスの課題は、①日本の技術と中国の市場の接点をどう見出すか、②発展段階が違う地域戦略(沿岸部と内陸部)をどう構築するか、③チャレンジ精神とリスク管理をどう両立するか、④人材確保、である。④については、今なぜ日系メーカーでストライキが多発しているかを考えるといい。それは、欧米系メーカーと比べて給与が安すぎることもあるが、現地法人の幹部に中国人を登用していないため経営管理のトラブルが起こっているということである。 最後に、今こそ日本に必要なのは、「親米睦中」という外交戦略であるということを指摘して、本日の講演を終わりたい。ご清聴、ありがとうございました。 (参考) |