長野

卓話



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事務局長が長野および長野西ロータリークラブで卓話を行ないました  [2010.05.28]

(長野ロータリークラブ卓話<2010.5.11>)
(長野西ロータリークラブ卓話<2010.5.28>)

「二宮金次郎から学ぶ」

           長野県金融広報委員会事務局長          
             (日本銀行長野事務所長)   佐 藤 俊 彦

  私の出身地である神奈川県の小田原は、関八州を股に掛けた北条早雲を初代とする戦国武将の北条氏が有名ですが、私は、小田原が生んだ最大の偉人は二宮金次郎(尊徳)だと思います。
  二宮金次郎と言うと、銅像でお馴染みの薪を背負って本を読む少年時代の姿ばかりがクローズアップされ、成人となった以降についてはあまりご存じでない方も多いようですが、今から2百年前、農民の出でありながら、関東を中心に6百余りの村々を復興させた人物で、その功績により幕臣に取り立てられています。今風に言えば、率先垂範型の経営コンサルタントと言えるでしょう。
  彼の思想である報徳の教えの3大徳目は「勤労」、「分度」、「推譲」です。「勤労」(「勤苦」とも言います)は、良く働くこと、「分度」は分相応に暮らすこと、そして「推譲」は世のため人のために尽くすことで、良く働き、そこで得た収入の範囲で分相応に暮らし、余れば他の人に分け与えるということが重要だと教えています。
  「積小為大」や「心田開発」も彼が好んで使う言葉ですが、「積小為大」は、小が積もれば大を為すということで、「百万石の米は一粒ずつの米が大きい訳ではなく、大きな田を耕すと言っても一鍬ずつ土を掘って広げるものだ」というようなことを言っています。「心田開発」は、「新田開発」を捩ったのでしょうが、田が荒れると人々の心も荒れる、だから、「私の道はまず荒れた心の田を開くことから始まる」と言っています。また、「水車の理論」というのもあります。水車は川の流れだけで回っていると思うのは間違いで、水車が川の流れだけに頼っているのであれば川下に流されてしまいます。川の流れに逆らう水車自身の力があるからこそ、そこに踏み止まって回転していると言うのです。彼は、「川の流れ」を「天の力」、「水車自身の力」を「人間の力(論理)」と言い、天の力に逆らう人間の力がパワーの源だと言っています。
  二宮金次郎は、「お金は卑しむものではない。お金の中に徳を発見し、その徳を掘り出して生活を豊かにするために活用しろ」とも言っています。つまり、お金に振り回されるのではなく、お金を振り回す(活用する)ということです。私は、長野県金融広報委員会の事務局長をしておりますが、この思想は、正に、当委員会の活動の柱の一つである『金融教育』の原点だと思います。翻って、今回の世界的な金融危機の原因の一つが、いわゆる「マネーゲーム」にあったことを考えると、人間はいつの時代も変わらないもの、懲りないものだと思わざるを得ません。二宮金次郎の教えを肝に銘じたいものです。
  二宮金次郎は、報徳の教えを実践する中でかなりの資産を蓄え、現在の信用組合の原点とも言われる「五常講」という金融システムを構築しました。「五常」というのは、「仁」、「義」、「礼」、「智」、「信」の5つで、「仁」は多少余裕のある人は困っている人にお金を差し出すこと(推譲)、「義」は借りた人は約束を守って返済すること、「礼」は借りた人は感謝すること、「智」は借りた人はどうしたら早く返済できるか努力工夫すること、「信」はお互いを信じることです。こうした倫理的自覚と連帯責任制度を組み合わせた、信頼関係を基にした金融の仕組みです。彼は貸し付ける金(貸付金)のことを「聖人御伝授の金」と呼びます。こうした大層なネーミングにしたのは、大切なお金をちゃんと返さなければいけないという気持ちを起こさせるためです。そして、一つ一つの貸付金を、例えば、「槇倹約からくり糸」とか「夜遊び法度からくり」と名付けます。貸し付ける相手に応じて、槇を節約して返済してくださいとか、夜遊びを止めれば返済できるようになりますよ、というのです。つまり、「貸す金融」ではなく、「返させる金融」です。今風に言えば、『中小企業金融円滑化法』のようなもので、大事なことは、借入人に対する目利き、あるいは、企業再生の取り組みということです。そして、貸付金に対する利子のことを「冥加金」と呼びました。
  さて、こうした二宮金次郎の教えを、国の姿として現代にどう活かせるのでしょうか。一つのキーワードは「農業」です。わが国の飲食費関連支出は約80兆円ですが、農業生産額はその1割程しかありません。農産物輸出額も少なく、国土の広い米国の30分の1は仕方ないとしても、国土面積がほぼ同じのドイツと比べても10分の1程度です。農業生産額を増やす余地は十分にあります。二つめはプライマリー・バランスです。報徳の教えは、簡単に言えば、『入るを計って出ずるを制す』ということです。昨今のギリシヤ問題を挙げるまでもなく、国家財政の健全化が如何に重要かはご理解頂けるでしょう。もう一つは、金融技術を磨いて効率を追求しつつモノづくりの伝統を活かす、ということです。単純なモノづくりだけでは日本の産業は維持できません。米国を真似る必要はありませんが、金融分野の重要性についても、職業柄意識せざるを得ません。
  「二宮金次郎から学ぶ」ということでのお話は以上ですが、最後に、二宮金次郎とロータリークラブとの関係について一言触れたいと思います。ロータリークラブの創始者ポール・ハリスが1935年に来日した際、東京の帝国ホテルの中庭に月桂樹を記念植樹しました。その月桂樹は、その33年後のホテル改築の際、同ホテルの社外重役であった矢野一郎氏(「それでこそロータリー」等の作詞・作曲者)が勤務する第一生命本社がある神奈川県大井町に移植されました。その後枯れましたが、その親木の挿し木6本のうちの1本が、二宮金次郎の生家に隣接する尊徳記念館に今も根付いています。
ご清聴、ありがとうございました。


長野県金融広報委員会
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